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04月19日
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永遠に本棚から下さない一冊の本

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【記念特集】

騒々しいこの世には静かな力が必要である。『静思語』は人々を啓発してくれると同時に、行動の方向と力量を探す道標となってくれる。

――林天来(遠見・天下文化事業集団出版部部長)

林天来氏が『静思語』のページを開いて、「善行をするために一秒一分をも競う」との一句を読んだ。この語録が発行されたのは一九八九年で、ちょうど同氏が花蓮から台北に来て、天下文化出版社の仕事に従事した時で、今から二十年前のことである。

林天来のストーリーは、出版業界では「不思議な伝説」として知られている。花蓮工業高校を卒業した後、鉄路局の臨時雇や、花蓮女子中学校の工員、図書館の管理員などをした。一九八六年、「仕事を楽しむ」を主題にする作文コンクールで最優勝を受賞し、天下文化出版社に採用されて入社した。

三十七歳の時、会社は彼をアメリカへ留学させた。林天来は再び学校で勉強できる幸せを味わった。英語が不得意だった彼は、早く異国での学習環境に慣れようと、持って行った中国語の本は『静思語』一冊だけだった。

留学期間中、時おり故郷が恋しくなったり、勉強で困難に遭った時は、『静思語』を出して読む。まるで證厳法師が傍で励ましてくれているようであった。一句一句の言葉に註釈を書いた字跡は、彼の長い人生の旅の体験記録である。

心を落ちつかせ
集中力を高める

林天来と『静思語』との間で心霊の対話が交わされてから既に二十年になる。彼は同僚や若い社員と静思語について話し合うのが好きだ。

彼はよい言葉で話す効力を高く評価する。「心の中で良いことを思い、口で良い言葉を話し、身は良い行いをする」。簡単なようで、注意を喚起させる良い作用となる。この効力がマスメディアを通して宣伝されれば、もっと大きな力を発揮できる。

価値観の乱れた若い人たちが、人生の手本を容易に求められないでいる。中年になる林天来は何とかして若い人たちに、理想の環境を与えたいと考えていた。

彼はある大学教授から、今の学生はよく学校を欠席するという話を聞いた。学校に来ないでいったいどこへ行くのか?

今の若者は、友達と電話したり、インターネットで時間をつぶしていることを知った。だから彼らは読書の時間も思考をする時間もないのだ、と気がついた。

林天来は、人は思考することによって善悪を判断する力を培うことができる。ほんの僅かでも、静かな時間をもってゆっくり思考すれば、心が落ちつき仕事に集中できると考えている。

若い人たちの未来に関心を持つ林天来は、常に学生たちに外に出てボランティア活動に参加するよう勧める。自分の志向や能力を訓練し、専門知識を培うよう励ます。彼はまた、若い人たちに『静思語』の一句である「生命は非常に短い。歩を速めて前に進み、だらだらしたしまりのない行為はいけない。前足を踏み出し、後足を離す。(即ち昨日の事は過去として忘れ、専念して今日のことをしなさいという意味)」を説く。

彼はさらに若者たちに、人が能力を発揮している時は、賞賛し祝福してあげ、自分に能力がある時は、他に気配りし時間と競走し、自分と競走すべきだと言っている。

時間を大切にする
「喧騒としたこの社会に今すぐ必要なのは静けさです」。林天来は「『静思語』を読むことによって生命が安静を得、充実したものとなります。語録の一句一句は生命に異なる想像を啓発してくれます。とくに逆境や不当な扱いに遭った場合、その中の一頁を開ければ行動の方向と力量を探し出すことができます」と語る。

現在の出版業者は大きな圧力に直面している。一年に四万冊以上の新書が台湾の書店に進入してくる。業績、推進企画、会議などは林天来の責任なので、彼の心は時々混乱する。
ある時、法師が「仕事に対して、いい加減にしてはいけません。私は慈済のことであれば一つとて逃しません」と言うのを聞いて驚き、「人はよく何でもいいから仕事をすればよいと考えるが、法師様は何の仕事をしても、専念して善に努めるのだ」と知った。

林天来は時間と生命を惜しむ。「法師様は口癖のように、一日には八万六千四百秒あると強調されています。分秒を惜しむのは、一日の一分一秒は全て神仏から賜ったものであるから、善をつくす時は、このような急迫感がなければなりません」と言う。

「『念茲在茲』とは、手で仕事をする時は心は手の上に、足で歩いている時は心は足の上に、話をしている時は心は口に専念しなければならないということである」。この静思語の一句は、読む人に、「時間を把握し、今この時に専念し、今が最もよい時機である」と教えているのです。



出版業に従事する林天来氏は、ある書籍は出版した後に、もっと大きな影響を及ぼすこともある。例えば、儒教思想『論語』、『孟子』、『大学』、『中庸』やキリスト教の書籍である『荒野の泉』などである。彼の眼中において『静思語』は、現代仏教の経典である。永遠に本棚から下さない一冊の本である。


文・朱英彦/訳・重安/撮影・陳李少民
 

" 【平凡の中の精進】 平凡な人生において己の行為を慎み、自らを反省し、好ましい態度を日常生活に表すのが精進である。 "
静思語