環境保全に重くのしかかるビニール袋

2010年 10月 01日 慈済基金会
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あなたは、台湾で一年に消費されるビニール袋はどれだけあるかご存じだろうか? 答えは百八十億個である。買い物をしたときに、持ち運びに便利だからと大量のビニール袋が使われている。街頭で一つ、二つとビニール袋を提げて歩いている人をよく見かける。そのビニール袋が環境と人体に健康の危機をもたらしているのだ。

ビニール袋が道端の下水道溝に落ちると排水が妨げられて路面に水が溢れる恐れがある。土の中に埋めても分解しないので、水が土壌に浸透するのを妨げる。 焼却すると塩化ビニールは発癌性のダイオキシンを発生する。このようにさまざまな害を及ぼすビニール袋は極力回収する必要がある。しかしこの問題を根本的に解決するには、人々が習慣を変えることだ。使用量を減らしたり重複して使用すること。そして最もいいのは使わないことだ。

熱い日差しが地面から反射して楊麗淑に照りつけている。ピンク色の帽子を被り、マスクを着けた彼女は、両手で忙しくビニール袋を一つずつ選り分けている。

慈済の環境保全ボランティアになって二十年このかた、楊麗淑はほとんど毎日のように台北市萬華にある慈済のリサイクルセンターに姿を現す。母子家庭で三人の子供をもつ彼女は、夜の時間に洋服の仕立て直しを引き受けて生計を立て、子供を育て上げた。母が夜通し働くのは体に悪いと案じて、環境保全ボランティアの時間を減らすようにと子供たちが言うと、「ビニール袋の回収と分類は猫の手も借りたいほど忙しいのよ」と言ってとりあわない。

面倒な仕事 
でも誰かがやらなければ……
市場の隅々にビニール袋の束が置かれている。買い物客が市場に足を踏み込んだ途端、店の人がさっとビニール袋を渡す。まだ何を買うか決まってもいないのに。

二十世紀の初頭に発明されて以来、便利なビニール袋はまたたくまに全世界に普及した。サイズと形の違うビニール袋が作られ、世界のどこの街角でも買った物を入れたビニール袋を提げて歩く人の姿が見られる。台湾の環境保護署の統計によると、台湾で一年に消費されるビニール袋は百八十億個に上り、これは、平均一人あたり一年に七百個を超えるビニール袋を使っている計算である。その九割以上がリサイクルされていない。

捨てられたビニール袋が風に吹かれて舞い上がっている光景をよく見かける。これが溝に落ち込むと排水が妨げられ、道路は冠水し、家屋は浸水の危険にさらされる。土の中に埋めても長時間分解しないので、土壌は水の浸透能力が破壊され、土地の砂漠化を招く。また、焼却すれば塩化ビニールは発癌性のダイオキシンガスを放出するので恐ろしい。

一般のゴミ処理法でビニール袋を処理するのは、前述のような欠点があるので相応しくない。それで慈済の萬華リサイクルセンターは二〇〇八年にビニール袋の回収を始めた。それから一年、毎日ビニール袋の回収に勤しんできた楊麗淑は、驚愕した。いともたやすく使われ、身の回りのあちこちで乱れ飛ぶビニール袋をみると、いくら努力しても回収しきれないという恐るべき事実を身をもって実感したのである。

一時的な便利さのためにビニール袋を安易に使っていると、後になっていくら力を尽くしても、ビニール袋がもたらす悪い影響を解決することはできない。そうと分かった楊麗淑はそれからは不便を我慢して、商店からビニール袋をもらわないようにしている。

できる限り多くのビニール袋を回収して環境への汚染を減らそうと、楊麗淑は回収したビニール袋を買い取る業者を探し回った。また、ゴミ埋立て場にも出向いて、ビニール袋の回収と処理の仕方を見習った。

ゴミ埋め立て場では、二人の作業員が一日八時間、休むひまもなく、ビニール袋の回収作業に携わっていた。しかし人手が足りないので、汚れていないビニール袋の回収しかできず、大量の汚れたビニール袋はふつうゴミと一緒に処理せざるを得ない。「その回収できないビニール袋が環境を傷つけていることを思うと、大変悲しいです」と、楊麗淑はビニール袋の回収はどれほど困難でもやめてはいけないと決心を新たにした。

細かく分類して
きれいに洗って回収する

ビニール袋の回収をするには、まずそれを買い取ってくれる業者を探さなければならない。環境保全の仕事に携わって十七年になる陳清雲は、高雄八卦寮の慈済リサイクルセンターの責任者である。先祖代々住んできた家の庭を、リサイクルの作業場として提供した時から、環境保全への意識を一度も疎かにしたことはない。ビニール袋の回収についても同様の心がけである。
七年前、陳清雲がビニール袋を買い取る工場を見つけ、八卦寮リサイクルセンターはその時からポリ袋の回収を始めた。汚れがついていないPE材質のビニール袋から始まって、徐々に多くの種類に幅を広げた。

汚れていないビニール袋の回収は軌道に乗ったが、家庭からゴミとして出された莫大な汚れたビニール袋はどうするか、長い間頭を悩ましていた陳清雲は二年半前にやっとのことで、汚れたビニール袋を回収し水できれいに洗う工場があると分かった。工場の経営者は「汚れていないビニール袋を回収するところはたくさんある。私は社会への奉仕と恩返しの信念で、人が処理に手間取るので嫌う汚れたビニール袋の回収に乗り出しました」と言った。

この新しい流通経路を見つけた後、慈済はビニール袋の回収範囲を拡大した。油で汚れたビニール袋でもよほどひどくないかぎり、家庭で食器を洗った水か洗濯の水を使ってちょっとそそぐだけで回収できるようになった。

焼却をやめ
環境汚染を減らす

ふだん買い物で使われているプラスチック材の箱や袋は種類が数えきれないほどある。リサイクルセンターで資源回収に携わる高齢のボランティアにとって、当初これらを細かく分類するのは至難の作業だった。

PP、PEなどの材質の標示を理解するのが大変だったほか、彼ら「老菩薩」が一番しんどいと思うのは、ビニール袋ごと残飯の生ゴミが持ち込まれることである。陽射しの熱で発酵した生ゴミが出す悪臭に思わずたじろいでしまう。

環境保全ボランティアの高玉英は、「ビニール袋の回収を勧めることは一番辛かったですよ」とその苦労話を話した。はじめは誰もビニール袋を清潔にして回収するような厄介な仕事をしたがらない。ビニール袋をひとつ拾って来ても、どこかで誰かがまたゴミ箱に捨てている。仕方なくもう一度ゴミ箱から拾い出すしかない。このような状況は相当長く続いた。

ビニール袋の回収を主張し続けて長い間たってから、やっとのことで少しずつ手を貸してくれる人が出てきた。整理した束のビニール袋を車の上に載せるだけの簡単な仕事を手伝っただけだが、高玉英は同志がさらに一人増えたことに大変喜んだ。独りで黙々とやってきた努力が報われ、精神的に癒された。

ビニール袋の回収は手間がかかるし、売ってもまとまった金にはならない。それで愚痴をこぼすボランティアが多い。これに対して高雄鳳山の新強リサイクルセンターは皆に優しく説明する。「焼却した後のビニール袋は灰となって焼却炉にくっついて空気汚染の元となります。だからお金にならなくても、回収をしなければならない」と。

ある時は彼らの愚痴に同調するように、「そうだね、お金にならないから焼却炉に送ろう」と言ってみる。するとボランティアたちは梱包したビニール袋を見ながら、「回収しなければ、焼却されてしまう。それは環境によくないこと」と言って、回収することの目的を理解しやる気を出すのである。こうして、多くのボランティアが目的意識をしっかり持って、ビニール袋を回収するためにこのリサイクルセンターに集うようになった。

リサイクルよりも
ゼロ使用を目指して

ビニール袋を回収し始めたころ、ある人が無使用のビニール袋をたくさん持ってきた。ボランティアは自分たちの説明が不十分で、民衆にビニール袋を多く使ってもいいというような誤解を招いたのではないかと戸惑った。

陳清雲は、今の時代、全くビニール袋を使わないという人はいない、できるだけ使用量を減らすようにと呼びかけるしかないと考えている。「しかしここでビニール袋の回収と分類に参加したことのある人は、床にいっぱい散乱しているビニール袋に囲まれて辟易しているので、ビニール袋を控えめに使うかまたは使わないようになります。分類の辛さを体験し、さらにビニール袋がやたらに使われているのに気がついたからです」。

回収されたビニール袋は、きれいに洗った後に細かく引き裂いて、熱で溶かしてからいろいろな物品に作り変えられる。その過程は複雑で、また大量の二酸化炭素が発生するので、やはりビニール袋の使用量を減らす、使わない、または繰り返し使うのが、環境保全の究極の道である。

健康のため
ビニール袋は使わない

陽明大学医学部の環境衛生研究所は四年前に、市場でよく使われているビニール袋の実験を行った。ビニール袋に摂氏六十度を超える熱湯をそそぐと、しばらくしてフタル酸エステルが湯の中に溶け出した。熱湯の温度が高いほど、フタル酸エステルの溶け出す量は明らかに増える。

ビニール袋の弾力を強めるために使われるフタル酸エステルは、環境ホルモンの一種である。人の体内にたくさん蓄積されると、内分泌系統、神経系統、免疫系統の作用を妨げる。ひどい場合は腫瘍が発生して健康が損なわれる。

体の健康を保ち、地球を愛護するために、慈済のボランティアは外出する時は、食器は勿論、買い物袋をも携帯する。

たとえば陳清雲は、家にある大小さまざまなビニール袋を三角形に折って、便利に持ち歩けるようにしている。八百屋で野菜や果物を買ってもほとんどビニール袋を使わない。インゲン豆ならゴム輪でくくる。野菜と果物は籠に入れる。パンは一つずつではなく一緒に同じ袋に詰めてもらう。押し合いへし合いでパンはへこむが、美味しさはちっとも変らないと、陳清雲は言う。

陳秀華は買い物袋を忘れたら絶対に買い物をしないと厳しく自分を戒めている。この決まりは家族みんなから支持されている。家族が買い物に出かける時、都合よく取れるようにビニール袋をきちんと折りたたんで玄関わきに置いてある。使った後の袋は野菜を洗う時についでに洗う。十年もこの習慣を続けており、家族もみな習慣になっている。

ビニール袋は長く使うと破れてしまう。こんな時、「小さい穴は粘着テープでふさぐ。大きい穴は輪ゴムでくるくる縛って使い続ける。どうにも使えない状態になってから回収に回す」と彼女は言う。店からビニール袋をもらわず、必要以上に余計な包装をした品物や、小さく分けて包装した食べ物を買わないようにしている。

陳秀華は言う。「消費者はもっと頑張らなければなりません。皆がきれいな包装と細かい包装に心を引かれないようになったら、地球ははじめて元気になれるでしょう」。



プラスチックは石油工業の副産品で、人工合成の高分子化合物である。分子の結合が非常に安定しているので分解しにくい。しかし人はその便利さに目がくらんで大量に作って使うようになり、今は使用後の処理に頭を悩ます結果となった。

「ビニール袋の使用が環境に悪いのは誰でも知っています。ですが、ビニール袋の使用を減らし、あるいは使わないで、環境に優しい買い物袋を携帯する人はまだ多くありません」。環境保全ボランティアの呉錦蕬は、ビニール袋の使用を控えて地球を守ろうと人々に呼びかけている。皆が一時の不便を堪えてこそ、未来の環境は良い方に向かって変わるだろう。

慈済月刊五二四期より
文・劉純吟/訳・金華/撮影・楊舜斌