一方に苦難あれば、十方から応援に駆けつける

2011年 5月 03日 慈済基金会
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證厳上人のお諭し
十月の下旬、メーギー台風(台風13号)は、フィリピンのルソン島に甚大な被害を与えた後、進路を北に変え、東北からの季節風と相まって相乗作用を引き起こし、台湾東北部で驚異的な大雨を降らせました。その結果、宜蘭や蘇澳一帯は豪雨のため土石流が発生し、蘇花公路は至るところで地滑りなどの深刻な災害が起こりました。

しかし、「一方に苦難あれば、十方から支援あり」です。被災地の人々をできるだけ早く苦難から救おうと、軍や警察、消防、そして民間の救援団体が次々と立ち上がり、危険を冒して、地上はもとより海上や空からも相次いで救援に駆けつけました。その行程はきわめて困難なものでした。慈済では、被災状況の情報を入手するや、ただちに人員と物資を集めて被災地に赴きました。静思精舎の師父や志業組織の職員だけでなく、北部および東部、また現地の宜蘭の慈済ボランティアたちが集まり、その人数は三日以内で三千名を超えました。彼らは被災状況を調査し、住民たちを励まし、災害慰問金を配布し、人々が堆積した泥を取り除くのを手助けするなど、救援活動にいそしみました。

慈済人は幾グループにも分かれ、力強い足取りで現地に向かいました。被災地の負担を増やさないようにと、だれもが清掃用具を持参しました。現地の慈済人の家も少なからず被害を受けたのですが、ただ簡単に片付けをしただけで、すぐに被災地に入り、被災者の生活の質をできるだけ早く回復することを目指しました。

慈済医療志業組織の医療スタッフは、現地住民が苦難に陥っている様子を見るに忍びず、慈済人たちと伴に被災地の奥まで入り、診療に当たりました。どの医師もたくさんの医療かばんを背負い、一軒一軒訪問ケアをしました。けがをしている人を見れば、ただちに治療と看護につとめたのです。この行程には、慈済病院台北分院の趙有誠院長も加わっていました。趙院長は足にけがをしている住民を見ると、その人の足を自分の膝の上に置き、注意深く手当てをしました。やさしい言葉をかけつつ治療するさまは、まるで自分の親に対するかのようで、誠に心あたたまる姿でした。

救援活動は社会の各方面に広がりました。例えば、鉄道局は車両の数を増やして、援助物資や人員の運送にあたりました。また被災地では、数多くの国軍や幾多の慈善団体が援助に駆けつけ、救援に尽力している姿が見られました。それは心あたたまる社会の有りようを感じさせる光景でした。

私たちは皆、生命共同体に属しています。ひとたび災難が起これば、人と人との間の助け合いがなくてはなりません。――無事だった人は災難に遭った人を助けるのです。同じ船に乗り合わせた者同士、お互いに力を合わせて難関を切り抜けるならば、災難をたちまち過ぎ去るものにしていけるでしょう。救援する側は、力を尽すだけで何も見返りを求めないとはいえ、救援される側は感謝の心でこれに応え、自ら努力していかなくてはなりません。愛の循環があってこそ、助ける側が助けられる側の真心をより一層感じることができるのです。

仏典は、「世間は無常で、国土は危うい状況にある」と述べています。

マスコミ報道によれば、蘇花公路が至るところで陥没しているのは、長年にわたって人間がたえず開発してきた結果、山そのものが損傷を受けているからだというのです。大地は広大で寛容で、黙々と万物を担って痛みに耐えてきました。しかし今や、満身創痍のありさまで、負荷に耐えきれなくなっています。私たちは自らを戒め、慎みの心を持たなければなりません。この道理を、人々は言葉だけでなく行いにも実現させ、善の力を結集して、共に地球を守っていくことが必要とされます。天地自然が穏やかであってこそ、私たちの生活は安定し、災害を少なくすることができるでしょう。 

二〇一〇年十月二十四~二十五日の講話より
訳/金子昭