一本のペットボトルから生まれた愛
捨てられたペットボトルをボランティアが一本一本回収している。回収されたペットボトルは愛と感謝によって心温まる織物に変身し、新たな生命がそこから始まる。「大愛感恩科学技術公司」で生産されたリサイクル織物にはトレーサビリティ(生産過程を追跡できる制度)が付き、そこには地道な足跡が記されている。
七月半ば、サッカーのワールドカップはスペインの優勝で幕を閉じた。一方、台湾北部のリサイクルセンターではおばさんたちがお喋りをしながら、回収物の山に埋もれて忙しく分類作業を行っていた。
この二つの状況は全く異なっているように見えて、実は共通点があった。それはペットボトルである。
今回のワールドカップに出場した多くの国の選手が着ていたユニフォームは回収されたペットボトルから再生した生地から作られていたのだ。その生地は台湾製で、台湾の紡績技術の水準の高さを示した。南アフリカでワールドカップが開催される数年前から、慈済ボランティアはリサイクルセンターに回収されたペットボトルを再生して毛布を作り、「虹の国」と呼ばれるこの国に贈ってきた。
厳選し回収物の価値を高める
ペットボトルをまず色分けした後、キャップとボトルの口に残った輪を取り外し、踏みつぶす。これは台湾各地の慈済リサイクルセンターでペットボトルを回収する時に行われる作業行程である。
統計によれば、台湾で年間に使用されるペットボトルの数は四十五億本に上り、一人当たり一年に二百本使っている計算になる。政策面での推進と環境保護団体の啓蒙活動によって、今ではペットボトルの回収率は九十パーセントを超えている。
初期の頃、慈済リサイクルセンターで回収されたペットボトルは、直接回収業者に売られ、詰め物やかつら、ジッパー、フェルトなどに用いられていた。しかし、二〇〇六年に「国際慈済人道援助会(TIHAA)」に所属する実業家ボランティアたちが本業の紡績技術を駆使することを思いついた。やがてペットボトルから再生されたポリエステル繊維で数万枚の毛布が作られ、慈済の国際緊急援助に活用された。回収された数え切れないペットボトルはより価値のあるものへと変身したのだ。
紡績業者にとって、回収されたペットボトルを再生して織物になることは難しいことではない。しかし、「回収されたペットボトルの再生は、業界では長年やってきたことです。しかし、衣類に再生されることは稀でした。その原因は、ペットボトルが清潔でないと、紡績過程で糸切れが発生しやすいからです。そのため従来はおもちゃの詰め物に使うしかなかったのです」と慈済人援会のボランティアである李鼎銘が説明した。
慈済本部の統計によると、環境保全ボランティアが一年間に回収するペットボトルの量は五千トンを超えている。その中で紡績に使われるのは約二千トンで、それらはほとんどがミネラルウォーターや他の飲料用のボトルである。
この二千トンの原料は厳密に分類される。まず、ボトルと材質が異なるキャップとそれを留める輪を外す。また、品質を一定に保つために、材質が雑多であったり、食用油や醤油用のボトルは取り除いている。
回収過程での環境保全ボランティアによる厳選に、慈済人援会ボランティアの専門技術が加わる。ペットボトルは洗浄されてから裁断され、溶解を経て粒状のポリエステルとなり、それが「大愛の糸」という長繊維になってから良質の繊維製品ができるのである。
二〇〇六年に始まって以来、慈済人援会は三十万枚を超えるエコ毛布を生産し、国際緊急援助と慈善援助に使用されてきた。
実業家たちが協力し合って
環境保全ボランティアが汗水を流して回収した成果を出すために、付加価値の高い製品を作ると共に、より多くの企業家たちを環境保全と公益活動の参加に誘っている。数名の実業家ボランティアが二〇〇八年に共同出資して「大愛感恩科技股份有限公司(株式会社)」を設立した。
同社は規模が小さく、自社工場も持っていない。そして、世界でも稀に見る「営利による非営利企業」なのである。
「二十一世紀は企業の社会における責任を重視していますが、私たちの会社は百パーセント公益に還元しています。今までにない形態の会社です」とその会社の役員とボランティアを兼任する李鼎銘が言った。同社は、得た利益は全て慈済に還元すると同時に、「人間菩薩」を募る場所でもあるのだ。今までに既に五十を超える、原料や製品を扱う様々な企業が参加し、協力している。
現在この会社は、ポロシャツ、マフラー、ショール、ベスト、ジャケット、帽子、靴下、ベビー用品、機能性衣類、日常生活用織物などのエコ商品を生産している。
「私が着ているこの服は、大愛の糸とコーヒーの出し殻で作った糸、そして、清涼感のある糸を使用しています。これを着ると清涼感があって、紫外線をカットすると同時に臭いを消す効果もあり、汗を吸収して素早く発散させる機能を持っています」と李鼎銘は三種混紡の大愛ポロシャツを着て、自信たっぷりに紹介した。
大愛感恩公司の事務所では、都会の会社に勤める人たちが着ているスーツ姿の社員は見られず、皆、緑色のペットボトルから作られたポロシャツを着ている。社員自らリサイクル原料でできた衣類の機能と快適さを実感できるようにしている。わずか社員十二人の会社であるが、慈済の環境保全運動において重要な推進役を担っている。
「環境保全ボランティアは黙々と働く人が多く、腰を曲げて仕事をするうちに人生の意義を見出します。毎日、楽しく奉仕し、善行をしているのです」と古参の環境保全ボランティアである陳金海が言った。毎日、食べて、寝て、最後に死ぬことを待つだけで、無用な人生を送ってきたと反省した彼ら高齢のボランティアたちは、リサイクルの仕事に人生の価値を再発見し、良能を発揮する有用な人に変身を遂げた。
ボランティアたちが手足を使って蓋留め用の輪をはさみで切ったりボトルを足で踏みつぶす動作一つひとつが大地に生気を取り戻させる手助けとなっているのである。いつも見返りを求めずに奉仕をしている彼らの善行はより多くの人々の賛同を得るはずだ。環境保全ボランティアに感謝の気持ちを表そうと、大愛感恩公司は、彼らが汗水流して回収し、厳密に仕分けたペットボトルを相場よりも高値で買い取っている。
「リサイクル活動は単に物を回収してお金に換えるだけでない、と法師さまはおっしゃっています」。李鼎銘は慈済の環境保全理念の本質を語ってくれた。そして、「私たちは相場よりも高値でボランティアから原料を買い取っていますが、そのお金はボランティアの懐に入るわけではなく、全部、大愛テレビ局の経営に還元されています」と付け加えた。
製品の履歴を辿れば
地道な活動の足跡が見えてくる
回収してから数多くの処理過程を経て再生される織物は、一般に比べてコストが高い。しかし、石油原料からできる製品は、資源の開発からエネルギーの消費、回収処理などのコストを考えた場合、必ずしもリサイクル製品より安いとは言えない。
消費者の目を安価の値札から、再生資源でできた「グリーン商品」の真の価値へ向けさせるには、その商品の価格以外の意義を理解してもらう必要がある。
現在、大愛感恩公司は有機農作物の販売方法にならって、「トレーサビリティ」を示すことで消費者に環境保全ボランティアの地道な足取りを知ってもらおうとしている。
「将来、私たちはあらゆる商品のラベルに番号をつけ、会社のウェブサイトにアクセスすればその商品がどのようにして出来上がったかを知ることができるようにするつもりです。何年何月にどの紡績工場で糸ができ、その糸は何という会社が製造した粒状のポリエステルを使っているか、という具合にボトルの裁断工程から回収を行ったリサイクルセンターの名前まで知ることができるのです」
李鼎銘は、「このボトルの破片は恐らく、台湾北部のあるリサイクルセンターで回収されたペットボトルのものでしょう。ですから、このリサイクルセンターで働くボランティアについてのストーリーをラベルに盛り込みます」と説明する。
緑色の菩提樹の葉をかたどったラベルをつけた大愛感恩公司の製品は、物としての機能を持つだけでなく、人文的な意義の表れなのだ。衣類や毛布一枚一枚の「生産過程の履歴」は敬服に値する環境保全ボランティアの記録であるともいえる。
「今年は慈済が環境保全活動を始めて二十年目です。私たちはボランティアの感動的なストーリーが、製品の生産という機械的な作業の中で、心を和ませてくれることを望んでいます」。リサイクル製品のトレーサビリティ制度を来年の慈済四十五周年記念日までに完成させ、環境保全に関心のある消費者から、慈済の環境保全活動により多くの賛同を得たい、と李鼎銘が言った。
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「私たちは、原料から製品となるまでの工程に関係したあらゆる人に感謝します」。大愛感恩公司が使用する原料は、慈済がこの二十年間に地道に行ってきた環境保全活動の成果である。そして、慈済イコール愛というイメージは、證厳上人が四十四年の歳月をかけて作り上げてきたものであり、それが世界中の慈済人によって六十数カ国にまで広がっているのだ、と李鼎銘が言った。
生まれて間もない大愛感恩公司はまだ未熟である。しかし、もっと多くの人が賛同し、環境保全と公益事業に参加することを願っている。
『天下雑誌』が行った調査によれば、台湾の八割の消費者は少し高くても環境に優しい製品を買いたいという結果が出ている。世界的に見ても、環境保全や労働者の権益、公益への還元など企業の社会的責任を商品の選択条件とする消費者が増えている。
このような状況の中、実業家のボランティアが創設し、慈済の環境保全ボランティアの協力の下にできた、ボランティア企業「大愛感恩公司」は、さらに大きな良能を発揮できるだろう。全ての努力は、この地球を愛し、後世により美しい地球を残してあげたいという初心に基づいているのだ。
慈済月刊五二四期より
文・葉子豪/訳・済運/撮影・楊舜斌